
業務のために駐車場を利用する事業者は少なくありません。月極駐車場やコインパーキングなど、利用形態は様々ですが、これらの駐車場代を経費として計上する際には、適切な勘定科目を選択し、正しく仕訳処理を行う必要があります。しかし、駐車場の利用目的によって適切な勘定科目が異なるため、正しい理解と注意が必要です。
この記事では、個人事業主や法人経営者、経理担当者の方々が、駐車場代の経費計上における適切な勘定科目の選択と処理方法を理解し、税務上の問題を回避しながら会計業務を効率化できるよう、具体的なケースを交えながら分かりやすく解説します。
駐車場代の仕訳に使われる主な勘定科目と、それぞれの具体例を見ていきましょう。
「地代家賃」は、事務所や店舗の家賃、月極駐車場の賃料など、土地や建物を借りる際に支払う費用を処理する勘定科目です。事業用の月極駐車場を契約し、毎月定額の賃料を支払っている場合は、この「地代家賃」として計上するのが一般的です。
「旅費交通費」は、役員や従業員が業務のために移動する際に発生する費用を処理する勘定科目です。電車代、バス代、タクシー代、航空券代、宿泊費などが該当し、出張先や営業先で一時的に利用したコインパーキングの料金もこの勘定科目で処理します。
旅費交通費として処理する場合、誰が、いつ、どこへ、何の目的で移動したのかを明確にしておくことが重要です。
「車両費」は、車両の維持・管理にかかる費用を処理する勘定科目です。ガソリン代、車検費用、自動車税、自動車保険料、修理代などが該当します。月極駐車場の料金やコインパーキングの料金を、車両に関連する費用として一括で管理したい場合に、この車両費を用いることがあります。
具体例:
「研修費」は、業務に必要な知識やスキルを習得するために、研修やセミナーに参加する際にかかる費用を処理する勘定科目です。研修の受講料や教材費などが該当し、研修会場の駐車場を利用した場合の料金も研修費に含めて処理することができます。
具体例:
研修の目的や内容、参加者などを記録しておくことで、経費としての正当性を示しやすくなります。
「福利厚生費」は、従業員の慰安や福利厚生のための費用を処理する勘定科目です。従業員のためのレクリエーションや行事などで駐車場を利用した場合、その料金は福利厚生費として処理できます。
具体例:
ただし、福利厚生費として認められるためには、全従業員を対象とし、社会通念上妥当な金額であることが求められます。特定の役員や従業員のみを対象としたものは、給与や交際費として扱われる可能性があるため注意が必要です。
「交際費」は、取引先など事業関係者への接待等の費用を処理する勘定科目です。取引先との会食時の飲食代や、お中元・お歳暮などが該当します。取引先の接待で飲食店などを利用し、その際に駐車場を利用した場合の料金は交際費として処理します。
具体例:
交際費は税務上、損金算入に制限があるため、他の費用と明確に区別して処理する必要があります。誰と、いつ、どこで、何の目的で支出したのかを詳細に記録しておきましょう。
「雑費」は、他の勘定科目に当てはまらない少額・臨時的な費用を処理する勘定科目です。頻繁に発生する駐車場代の処理には不向きですが、ごくまれなケースで使用されることがあります。多用は避けましょう。
「開業費」は、事業を開始するまでの準備期間に支出した費用を処理する勘定科目です。個人事業主の場合は開業日、法人の場合は設立登記の日より前に支出した費用が該当します。市場調査費用、事務所の賃借契約にかかる費用、打ち合わせのための交通費などが含まれ、開業準備のために利用した駐車場の料金も開業費として計上できます。
具体例:
開業費は、開業後に任意償却(5年均等償却または任意償却)することができます。領収書などをきちんと保管し、開業日以降に経費として計上しましょう。
税務調査などで費用の内訳を細かく確認される可能性を考慮すると、月極駐車場代は地代家賃、一時的な駐車場代は旅費交通費や雑費など、利用実態に合わせてより適切な勘定科目で処理する方が望ましい場合もあります。企業の経理方針や管理のしやすさを考慮して選択しましょう。
次に、具体的なケース別に駐車場代の仕訳例を見ていきましょう。
事務所の来客用や従業員用として借りている月極駐車場の賃料20,000円が、普通預金口座から引き落とされた場合の仕訳例です。
この場合、駐車場の利用目的が事務所運営に付随するものであるため、「地代家賃」として処理します。
社用車を保管するための月極駐車場代15,000円を現金で支払った場合の仕訳例です。
「地代家賃」のほかに、車両関連費用として「車両費」で処理することも可能です。どちらの勘定科目を使用するかは、企業の経理方針に基づき、継続して同じ科目を使用するようにしましょう。
従業員が出張中に取引先訪問のためコインパーキングを利用し、駐車料金800円を現金で支払った場合の仕訳例です。
摘要には、誰が、どこで利用したのかを記録しておくと、後で確認しやすくなります。
従業員が業務研修に参加するため、会場近くのコインパーキングを利用し、駐車料金1,200円をクレジットカードで支払った場合の仕訳例です。
クレジットカードで支払った場合は、利用時に「未払金」として計上し、後日口座から引き落とされた際に未払金を消し込む処理を行います。
社員旅行中にバスの駐車料金として3,000円を現金で支払った場合の仕訳例です。
社員全員を対象とした福利厚生目的の支出であるため、「福利厚生費」として処理します。
取引先の担当者との会食のため、飲食店の近くのコインパーキングを利用し、駐車料金1,500円を現金で支払った場合の仕訳例です。
接待に関連する費用であるため、「交際費」として処理します。
開業前に、事業計画の打ち合わせの際にコインパーキングを利用し、駐車料金500円を現金で支払った場合の仕訳例です。
開業日より前の支出であるため、「開業費」として処理します。
上記のいずれにも分類しづらい、一時的かつ少額なコインパーキング代300円を現金で支払った場合の仕訳例です。
頻度が低く、金額も少額な場合に限り「雑費」として処理します。
月極駐車場契約時には、賃料以外に敷金・礼金・仲介手数料が発生することがあります。これらの会計処理も重要です。
敷金は、将来返還される予定のため、支払時は費用ではなく資産(「差入保証金」など)として計上します。
契約により返還されない部分(償却敷金など)は、契約時に金額が確定していれば「長期前払費用」(20万円以上の場合)として契約期間で費用計上するか、「支払手数料」や「地代家賃」(20万円未満の場合)で一括費用処理も可能です。
返還されない礼金や仲介手数料は、原則「支払手数料」で処理します。ただし、礼金が20万円以上の場合は税務上「繰延資産」として5年間(契約期間が5年未満ならその期間)で償却します。20万円未満なら支払時に全額費用計上できます。
駐車場代を経費計上する際の注意点を押さえ、税務リスクを減らしましょう。
一度決めた勘定科目は、会計の「継続性の原則」に基づき、継続して使用します。
社内で会計処理ルールを統一することで、会計帳簿の比較可能性の確保、誤処理の防止、税務調査への対応力強化につながります。
経費計上には支払いを証明する領収書等が不可欠です。領収書がないと、税務調査で経費として認められない可能性があります。
コインパーキング等で領収書が出ない場合は、利用日時・場所・金額等を記録した出金伝票やメモを残しましょう。
特に「旅費交通費」「交際費」「雑費」で処理する場合、いつ、どこで、誰と、何のために利用したかを具体的に記録することが重要です。税務調査では経費の事業関連性が厳しくチェックされます。利用目的等が不明確だと私的利用と疑われ、経費否認のリスクがあります。経費精算書や日報等に詳細を記録しましょう。
駐車場代の消費税の扱いは、駐車場の種類や契約形態で異なります。
月極駐車場は原則課税対象です。ただし、駐車場として整備されていない土地の貸付とみなされる場合や、住宅の貸付と一体の場合(一定の要件あり)などは非課税となることがあります。設備が整っている場合は施設の貸付とみなされ課税対象となるのが一般的です。
コインパーキング利用料は原則課税対象です。
前述の通り、単なる土地の貸付や、住宅貸付に付随する一定の駐車場は非課税です。契約内容や状況を確認しましょう。
個人事業主の場合、自宅兼事務所の駐車場や、プライベートと事業の両方で使用する車の駐車場代など、事業用と家事用の支出が混在することがあります。このような場合、事業で使用した分のみを経費として計上するために「家事按分(かじあんぶん)」という考え方が必要になります。
家事按分とは、家事費と事業経費が一体となっている支出(家事関連費)について、事業遂行上必要であったことが明らかに区分できる場合に、その区分された金額を必要経費として算入することです。
駐車場代を家事按分する際の一般的な基準としては、以下のようなものが考えられます。
駐車場を事業で利用した日数や時間、プライベートで利用した日数や時間を記録し、その割合で按分します。例えば、週5日は事業で使用し、週2日はプライベートで使用する場合、事業割合は5/7となります。
車を事業用とプライベート用で共用している場合、事業での走行距離と総走行距離の割合で駐車場代を按分する方法もあります。
自宅敷地内の駐車場の一部を事業用車両の保管に使っている場合、駐車スペースの面積や、事業用車両と自家用車両の台数比などで按分することが考えられます。
按分基準は、税務署に対して説明できる客観的かつ合理的なものである必要があります。
利用日数や時間の記録、走行距離の記録など、按分計算の根拠となる資料をきちんと保管しておきましょう。
例えば、事業専用の車両を保管するためだけに借りている月極駐車場であれば、家事按分の必要はなく、全額を経費として計上できます。
客観的な根拠に基づいて事業割合を合理的に説明できない場合、税務調査で経費計上が否認される可能性があります。
特に、生活と事業の区別が曖昧になりがちな自宅兼用車両の駐車場代や、自宅兼事務所の家賃などは、税務署から指摘を受けやすいポイントです。
経費計上が否認されると、所得税や住民税、消費税(課税事業者の場合)の追徴課税が発生するだけでなく、過少申告加算税や延滞税といったペナルティが課されることもあります。そのため、日頃から事業とプライベートの利用状況を明確に区分し、記録を残しておくことが極めて重要です。
家事按分の計算は煩雑に感じるかもしれませんが、適切に行うことで節税に繋がります。不明な点があれば、税理士などの専門家に相談することをおすすめします。
2023年10月開始のインボイス制度(適格請求書等保存方式)により、仕入税額控除には原則として適格請求書(インボイス)の保存が必要です。
月極駐車場やコインパーキング利用時も、貸主等が適格請求書発行事業者ならインボイスを受領・保存します。貸主等が免税事業者の場合、インボイスは交付されず、経過措置はあるものの将来的には控除不可となる点に注意が必要です。個人貸しの駐車場などは契約前に確認しましょう。
駐車場代の経費処理は、利用目的によって使用する勘定科目が異なり、敷金・礼金などの初期費用や消費税の取り扱い、個人事業主の家事按分、インボイス制度への対応など、考慮すべき点が多くあります。
この記事で解説した主なポイントを再確認しましょう。
駐車場代の勘定科目を正しく理解し、適切な経費処理を行うことは、正確な財務状況の把握だけでなく、税務調査への備えや節税にも繋がります。日々の取引を丁寧に記録し、不明な点は早めに専門家に相談するなどして、適正な会計処理を心掛けましょう。
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